極限との出会い

子どもの頃の記憶だ。たぶん、小学校4年生か、それより前だろう。下駄箱のあるあたりで私はじっとしている。なぜそんなところにいるのかは、わからない。掃除をさぼって隠れていたとか、体育をさぼって隠れていたとか、だいたいそんなところだ。
そして、暇をもてあまして考え始めた。
ここに、立方体の形をした箱があるとする。その上に、一辺の長さが半分の箱を乗せる。そして、さらにその半分の箱を乗せる。これを永久に繰り返したら、天井まで届くだろうか。
最初の箱が十分大きければ、すぐに届きそうだ。では、最初の箱が小さかったらどうか。なんだか届かないような気がする。しかし、箱を乗せる回数は無限だし、箱は小さくなるといっても必ず大きさがある。届いたって悪くはなさそうだ。仮に届く場合と届かない場合があるとしたならば、それはどう違うのだろうか。
いくら考えても、わからなかった。
そして今でも、級数の話になると、下駄箱の砂埃のにおいを思い出す。